親知らずの移植(自家移植)について
歯の移植と言うと初めて聞く人もいるかもしれませんが、実は保険でも認められている治療です。インプラントと異なり、自分の歯を移植しますのでアレルギーの心配もなく、インプラントにはない歯根膜と言う組織も復活します。良いことづくめのように聞こえるかもしれませんが、いくつかの条件があります。
★親知らず移植(自家移植)のステップ
step1 : 移植(自家移植)ができるかどうかの診断
親知らずに大きな虫歯がなく、歯周病にもかかっていない健康な状態にあるかどうか?
親知らずの大きさや形は移植に適しているか?
移植する部位の歯槽骨は充分な厚みや量があるか?噛み合わせは大丈夫か?
などをチェックします。
step2 : 固定の準備
【なぜ固定するのか?】
移植した後、移植歯の周りでは新たな骨や歯根膜が作られます。その間、移植歯に強い力がかかったり、グラグラ動かされると新しい組織が作られず、移植歯が生着せず、移植が失敗することになります。
骨折をした後にギプスをして、折れた骨がくっつくのを待つのと同じ原理です。
移植歯は隣の歯にワイヤーとレジンの接着材を使用して固定します。固定の期間は2~3ヶ月ほどになりますが、状況によって前後することがあります。
step3 : 移植(自家移植)当日
①
移植する部位の歯を抜きます。次に歯槽骨を形成して移植歯が抵抗なく入るようにします。
②
親知らずを抜いて移植します。(親知らずの抜歯は①と同時に行い滅菌生理食塩水につけて置くこともあります)
③
移植した歯が動かないようにワイヤーとレジンで固定します。移植した親知らずの咬頭を落として口を閉じた時に、移植した歯が当たらないようにします。
step4 :消毒・抜糸・咬合確認他
①翌日消毒
②3日後に経過観察
③7日後に抜糸
④ 14日後頃 咬合などの経過確認
⑤1ヶ月後 移植した歯の動揺・清掃状態・固定状態をチェックします。
step5 :1ヶ月後 根管治療開始
移植した歯は一度抜歯するため、歯の神経が壊死します。壊死した神経を取り去らなければなりません。
step6 :3ヶ月後 、いったん仮歯を作りその後最終補綴物セット
移植歯は最初からしっかり噛める位置には移植しません。移植歯は大きさや形が移植先に的することが少なくないため、そのままではうまく噛むことができません。よって、根の治療が終わったら、移植歯を削り、詰め物や被せ物をする必要があります。
★親知らず移植(自家移植)可能かどうかの診断は?
・移植歯の根の形態や大きさが受容部に適合するかかどうか
・移植歯のカリエスや充填物を除いた健全歯質の量が適切か
・移植歯の歯根膜付着量が供給歯として可能かどうか
・移植する部位の骨に充分な厚みや量があるかどうか
・患者さんの体調が外科的処置が可能で、治療内容を充分に理解できているかどうか
・移植後の注意事項を充分に理解できているかどうか
・移植後の治療に於いて、補綴物セットまで継続的に通院可能かどうか
【参考】
日本歯科医師会
テーマパーク8020
「歯を失ったら」
https://www.jda.or.jp/park/lose/teeth-planted.html
★金額について。保険適用かどうか?
・保険診療で認められている移植は同側でかつ親知らずの同時型移植のみです。親知らず以外の移植あるいは左右逆の親知らずの移植や、移植する部位の抜歯が同時でない場合は保険適用外になります。
・保険で出来る移植は同側であることです。
※例えば右側親知らずを左側に移植する場合は保険適用にはなりません。
★移植した歯の寿命は?
「移植した歯はどのくらい持つか?」と聞かれることがありますが、移植歯の状態や噛み合わせ、清掃状態によって予後は変わります。私は10年は持たせたいと思って行なっていますが、もっと短い場合もあれば長い場合もありますので、一概には言えません。移植以外で治療した歯も患者さんの日頃のお手入れや健康状態で持ちというのは変わります。移植に限らず、虫歯や歯周病は定期検診に行くことで早期発見・早期対応が可能となりますので、口腔の健康に検診は欠かせません。
★移植とインプラントの違いは
移植とインプラントとの決定的な違いは「歯のクッション材」の役目をしている「歯根膜(しこんまく)」が移植では機能していることです。
歯根膜(しこんまく)とは、歯を支える歯槽骨と歯根の間にあってクッションの役割をしている線維組織のことです。歯周靭帯(じんたい)とも呼ばれます。
歯根膜には再生機能があり、移植先で骨組織を作ることができます。
また、骨組織のみならず歯周組織の再生も期待できます。自家歯牙移植において移植歯が生着するのはこの歯根膜の骨再生機能によるものです。